このコロナ禍の中、2021年の7月から9月にかけて東京オリンピックおよびパラリンピックが1年延期の挙句に無観客で開催され、大規模交通規制や首都高のロードプライシングなど悪影響のみを押し付けられる形になったのは極めて残念だったと言うほかありません。
歴代最長在職日数となった安倍晋三元首相の後を受けた菅義偉前首相が1年で退陣することになったのは、コロナ禍に世論が起こしたヒステリーによる支持率低下が原因と思われますが、ある意味、民主主義の悪い面が出たのではないかと言う感想を持っております。ただ言うまでもありませんが、悪い面があるからと言って民主主義を捨てるべきだなどと考えるのはあまりに短絡的です。一国二制度を50年維持するとの約束をかなぐり捨てて弾圧を行った某国の例を見れば、独裁政治の非人道性や、我が国との大きな違いは明らかでしょう。
そんな中で西太平洋における米中の覇権争いは厳しさを増しており、台湾有事がまことしやかに囁かれるこの時代について、清朝末期に西太平洋最大の海軍戦力となった北洋艦隊すら連想せざるをえないほど、歴史の歯車の逆回転を感じています。「地政学的リスク」と言う言葉もよく聞かれるようになって来ました。時代の先行きは10年前に描いていたそれとは大きく異なってきていると言えましょう。
一方であまり報道されていませんが、2020年度はコロナ禍で日本のGDPが落ち込む中で税収が過去最高になると言う不思議な事態が発生しました。税務の教科書では「ビルトインスタビライザー(自動安定化装置)」という用語があり、景気が過熱すれば税収が上がることで冷却し、景気が冷え込めば税収が下がって加熱されると言う課税の景気に対するフィードバック効果を説明するものです。
「GDPが下がったのに税収最高」と言うのは、このビルトインスタビライザーの理論に反する現象です。これは消費税の税率が折悪しく2019年10月に10%に引き上げられた影響がタイムラグを伴って実現したことによる部分が大きいのですが、一方でコロナ禍による需要の変化を巧みに捉えてビジネスチャンスに結び付けて利益を生み出した事業者が一定数いることも要因の一つかと考えられます。
時代は大きく軋み始めており、ニュースの端々にその手掛かりが見え隠れしています。原油や農作物の価格上昇、カーボンニュートラル、東京都の人口が25年ぶりに減少、米国におけるコロナ死亡者数が南北戦争の死者数を超過、半導体不足などそれ一つでも大きな影響を受ける業種の経営者の方は勿論、複合要因による影響が様々なところに出て来る全てを予想することは困難であり、経営者には経営体力の温存と変化への素早い対応が一層求められています。